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当院院長・近江源次郎が金原出版株式会社刊「すぐに役立つ眼科診療の知識ー両眼視ー」の「治療・両眼視を考慮した硝子体手術」の項目を大阪大学医学部眼科学教室の下條裕史氏と共に執筆しておりますので、その内容を転載しお届けいたします。
以下、金原出版株式会社刊「すぐに役立つ眼科診療の知識ー両眼視ー」より(2007年1月31日第1版第1刷発行)

近年、硝子体手術の進歩により、それまで治療不可能とされていた加齢黄斑変性や、近視性脈絡膜血管新生などの黄斑疾患が手術可能となってきた。黄斑部は両眼視に対して最も強く影響する部分であり、黄斑部の障害により、もともと正常であった両眼機能が後天的に障害されることとなる。手術により、網膜の位置を移動させることにより、もう片眼が障害されていなければ、一旦失われた両眼視機能が再び得られるという可能性も出てきた。しかし、術後にその両眼視による複視の問題も出現してきたのも事実である。
この項では これら黄斑移動術をはじめとした硝子体手術について述べ、またどのような両眼視の問題が生じているかについて述べることとする。

網膜全周を切開するために、大角度の移動が可能であり、変性部分の大きな病変にも対応できる(3乳頭径程度でも移動が可能な場合がある)のが特徴である。
なお、初回手術は全身麻酔で行うことを原則としている。
(1)まず後部硝子体剥離を作成し、その後(2)硝子体を周辺部まで処理した後、(3)39G針にて網膜下に灌流液を注入して人工的に網膜剥離を作成する。(4)その後、鋸状縁周辺で網膜全周を切開したのち、パーフルオロカーボンを注入し、病変部位(新生血管など)から正常な組織の上に黄斑部を移動させる。液ーガス置換したのち、切開の境界面付近をレーザーで凝固を行い、最後にシリコンオイルを注入して手術を終了する。ただし、回旋斜視が必発であるため、シリコンオイルを除去したのち(抜去はほぼ2ヵ月後)、手術後再剥離が発生しないことを確かめて、回旋斜視手術を施行する。
360°網膜全周切開黄斑移動術は、片眼が変性により視機能がほとんど失われている場合、他眼、いわゆるlast eyeに施行した場合は15°程度までなら回旋が残存しても適用できることを筆者らは多く経験しているが、それ以上の著明な回旋角度や、15°以下で、他眼の視機能がよく残存している場合は複視や見え方の違和感を訴える。
術後複視や、像の傾斜をできるだけ避けるためには回旋斜視手術が必要である。
回旋斜視手術は、大きな回旋角度を得るために、下斜筋の大量移動を行う。術前に水平方向(3時から9時方向)をピオクタニンでマーキングをおき、後の回旋角の推定の一助とする。
まず、上斜筋を付着部から内直筋の付着部上縁付近まで後転する。次に下斜筋の付着部で切腱した後、外直筋の下をくぐらせ上方に移動させる。外直筋はあらかじめ3−0絹糸をかけておくと操作しやすい。
下斜筋を縫着するときはまず、仮縫合をしてから、マーキングの位置を確認して、目標どおりの角度になっているかを確認する。回旋が足りなければさらに上方に縫合をおく。回旋斜視手術の角度は大体30°程度が限界である。

360°網膜全周切開による黄斑移動術に比べ、移動する黄斑の角度は小さい(約0.5乳頭径)が、手技は煩雑でなく、また後日にタンポナーデ物質を除去する必要がない利点がある。
方法は、まず強膜短縮用の縫合糸をあらかじめ設置した後、全周切開による黄斑移動術と同様に後部硝子体剥離、周辺部までの硝子体切除を行う。その後、意図的な網膜剥離を作成して、設置しておいた縫合糸を縛って強膜を短縮する(縫合糸を用いずに、脳外科で用いる金属性のクリップを用いて強膜を短縮する場合もある)、網膜は浮き上がった状態となるため、まずは術後しばらくは耳側を下にして耳側の網膜剥離を完全にしたうえで、その後、起座位に保たせて重力とともに黄斑部付近の網膜を移動するというものである。
移動量は重力などに依存するため、全周切開に比べ、詳細な角度を移動させることはできないが、回旋斜視がほとんど生じないため、比較的小さな病変には第一選択であると考えられる。ただし、先述のとおり術後体位が重要であるため、場合によってはしわがよったまま復位して変視が残る場合も起こりうる。また、視力差が両眼で小さい場合には、回旋角度が小さくても複視や回旋の自覚があり、斜視手術が必要になったという報告もある。また、小角度の回旋により、日常視とは異なる立体感が出る場合がある。これについては後述する。


自験例で、360°網膜切開による黄斑移動術を比較的多数経験できたため、そのデータに基づいて傾向を示す。いずれも問診では黄斑部病変出現前に両眼視が良好であったことが確認できた症例である。
A 回旋角度
網膜全周切開による黄斑移動術の場合、自験例の31例で平均30.3±9.4°の回旋斜視が発生した。また、回旋斜視手術の効果は平均23.7±5.6°であり、平均8.5±7.2°の他覚的回旋斜視が存在した(なお以下、他覚的回旋斜視は眼底写真の比較から、自覚的回旋斜視は、Maddox
double小杆試験から、回旋斜視手術の効果は術中写真から測定を行った)。
B 複 視
複視は 31例中7例に生じており、25°以上の残余回旋斜視の症例ではすべてに複視が自覚された。術眼が視力不良で、健眼が視力良好で左右の視力差が大きな症例では術眼の回旋角度が比較的大きくても日常生活が困難なほどの複視は生じなかった。
C 両眼視機能
融像機能が可能であったのは約1/3の症例(31例中11例)のみであり、約2/3の症例(31例中20例)で回旋斜視による障害がみられた。また斜視手術により、残存回旋角度が減少している症例では、立体視が得られた症例もみられた。融像の得られた症例は融像不可の症例に比較すると、有意に残存回旋斜視角が少ないという結果であった。

A 両眼視機能
中心暗点が存在しなければ融像などの機能は良好である。片眼に中心暗点が存在しても、周辺部融像は良好である。
B 立体視
硝子体手術、特に強膜短縮による黄斑移動術後や、全周網膜切開による黄斑移動術後で斜視手術により回旋角度がほとんどなくなった症例で、平面のものが浮き上がってきて怖い思いをしたという訴えをすることを経験している。小角度の回旋が片眼にある場合、回旋によるずれを視差として捉えてしまい、それにより立体視に近い状態を起こしている可能性がある。
筆者らは以前、正常人で片眼に回旋視標、もう片眼は回旋のない視標を負荷し、片眼に抑制暗点を負荷して立体感の有無を測定したが、ほとんどの症例で斜めに傾いた状態での立体感の自覚が検出され、視標が小さいほど大きな回旋角でも立体感が得られた。
また、後天的に片眼が微小な回旋斜視になった場合、このような現象が一時的に起きる場合があり、注意が必要と考えられる。
今回の黄斑移動術のみならず、網膜剥離の硝子体手術などでも、体位などがうまくいかずにずれが生じた状態で復位した場合などにこのような現象が起きる可能性は否定できない。

上記のような新しい手術により、中心固視が回復することで視力向上が可能となる症例が増加したが、残存回旋斜視の角度によっては術前より不自由を生じる可能性もあるため、他眼の視力が良好な場合は術前術中の定量は特に注意して行い、Quality
of Visionの向上に努めなければならないと考える。
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