|

今回は、当院院長・近江源次郎が平成19年4月21日に開催されました「専門医制度第46回講習会」において『「プライマリ・ケア・シリーズ42」斜視・眼筋手術の進歩』というテーマにおいて「局所麻酔下小切開斜視手術」という演題にて講演を行いましたので、その際の資料内容を転載しお届けいたします。

斜視手術の結膜切開法1)2)として、@輪部切開法(limbal incision)、A瞼裂内切開法(transconjunctival
incision in the palpebral opening〔Swan〕)、B円蓋部切開法(transconjunctival incision
in the cul-de-sac〔Parks〕)の3つが代表的であるが、それぞれに一長一短がある。
@輪部切開法は、現在最も多用されている方法で、広い術野で確実な手術が可能であるが、結膜切開創が長く広範に及ぶことから、侵襲が多く術後瘢痕やテノン組織の過形成を起こし易い。
A瞼裂内切開法(経結膜切開法)は、筋の付着部付近に付着部と平行に一本の切開をおく方法で、筋の露出までの時間は短く手術侵襲も少ないが、水平筋手術では瞼裂内に切開創が露出することから整容的に不利となる。
B円蓋部切開法は、筋の下方または上方に筋の走行と平行に一本の結膜切開をおく方法で、切開創は短く侵襲も少ないが、小さな創口を通して操作を行うため手技が煩雑で熟練を要するのが欠点とこれまで考えられてきた。
一方、斜視治療の目的として、術者は視機能の改善に学術的興味を奪われがちであるが、患者の最大関心事が容貌の回復にあることは少なくない。最近になり、Guytonの小切開斜視手術3)4)(Parks円蓋部切開法を改良したもの)をはじめとする結膜をなるべく小切開で斜視手術を行う術者が増えつつある。
当院でもなるべく全例において顕微鏡下での小切開斜視手術を心掛けており、ここでは実際の手術手技を中心にお話しする予定である。

(1)結膜切開前に結膜より透けてみえる目的直筋の輪郭を確認しておくことが最も重要である。一般に高齢者では結膜が薄く容易にわかるが、症例によりわかり難い場合は、自動的もしくは他動的に眼球を動かすことで、目的とする直筋の前毛様体動静脈が結膜の動きと連動して動かないことより直筋の輪郭を知ることができる。
(2)将来的に緑内障手術をはじめとする斜視以外の手術も受ける可能性や、術後整容を考え、なるべく結膜およびテノン膜への侵襲が少なくなるような最小限の結膜切開法(できれば線状)を選択する。
(3)できるだけ結膜切開創が上、下眼瞼で隠れるよう配慮する。
(4) 眼筋の走行にかかる結膜切開は避ける。
(5)一般に年齢が高くなるにしたがって、結膜の弾性や強度が低下するので、若中年でない症例では小切開からはじめても、必要に応じて最小限のさらなる結膜切開を躊躇なく追加する必要がある
。


全身麻酔下で施行する必要のない斜視手術で局所麻酔(すべてテノン嚢下麻酔)を用いている。原則としては前投薬は行っていない 。局所麻酔下での斜視手術では、特に眼筋の牽引は最小限とし、眼心反射や疼痛が生じないように、丁寧に眼筋を扱う必要があるとともに、vocal
anesthesia(生じると予想される感覚をあらかじめ告げることにより、患者は余裕を持ってそれを受容できる)が重要である。また手術筋の反対方向をみるように命ずることも大切である。テノン嚢下麻酔の手技としては、点眼麻酔下での結膜(およびテノン膜)切開後、結膜切開部より深作式ピンポイント麻酔24ゲージ針(鈍針)を強膜に沿って眼球後方まで入れ、2%Eキシロカイン (エピネフリン添加の2%塩酸リドカイン)2〜3ml(結膜浮腫があまり生じない程度の最大量)を注入し、目的筋群周囲に十分浸透するまで待つように心掛けている。

一般に現在も多くの術者が、手術顕微鏡を使用せず低倍双眼ルーペもしくは裸眼で斜視手術を行っている。その理由としては、目的筋に対して最もアプローチしやすい場所から手術操作が可能であることや、手術器具への干渉を気にせず手術が可能である点が挙げられる。しかし、最近の手術顕微鏡では対物レンズの焦点距離が200mmのものが普及してきており、私も斜筋手術を含むすべての斜視手術で手術顕微鏡(対物レンズの焦点距離が200mm)を使用している。焦点距離が200mmあると、一般の斜視手術器具による干渉をまったく気にせず手術が可能であり、手術顕微鏡使用の最大の利点は調整力が衰えた術者にも、拡大率を任意に大きくすることやフォーカシングにより常に明るい鮮明な像が得られることで、強膜穿孔や筋紛失などの術中合併症の多くを回避することや結膜縫合時も可能な限り丁寧にできるからである。また、録画できるという利点もある。術後瘢痕化を最小限にするためには、手術顕微鏡下での必要最低限の止血をこまめに行うことが重要と考える。
(文 献)
1)Helveston EM:Atlas of Strabismus Surgery.3rd ed.CV Mosby,St Louis,99-119,1985
2)坂上達志 :斜視手術の基本術式と量定ー直筋手術.丸尾敏夫(編):眼科診療プラクティス4.斜視診療の実際.文光堂,東京,132-9,1996
3)Guyton DL Fornix approach with adjustable sutures.in:Gottsch JD,Stark
WJ,Goldberg MF(Eds):Ophthalmic Surgery,5th ed Arnold,London,85-91,1999
4)長谷部聡,野中文貴,山根貴司,藤原裕丈,大月洋:Guytonの小切開斜視手術と手術成績.臨眼55:1767-70,2001
|