| 
当院院長・近江源次郎が「Eye Surgery バトルロイヤル2 網膜硝子体、斜視編」(発行:株式会社メジカルビュー社 2006年9月10日初版)の「斜視手術」に執筆しておりますので、その内容を転載しお届けいたします。
「Eye Surgery バトルロイヤル」では、専門領域別に5、6名のSurgeon(外科医、Doctor)が質問に対して持論を披瀝する形式で構成されていますが、Web掲載に関しましては、当院院長の記載内容のみ掲載の許諾を得ており、他の方の記載部分は掲載できませんのでご了承願います。
尚、本企画( Eye Surgery バトルロイヤル)は、6年前から眼紀(日本眼科紀要)で掲載が開始されたもので、すでに過去のものとなった手技や禁忌ではなくなったシチュエーションも含まれておりますが、基本的に雑誌掲載時の文章はそのまま掲載しています。雑誌掲載時から変更が生じた手技や方法等は青文字で掲載していますのでご了承願います。
第6回目の掲載内容は「今後の展望」についてです。「Eye Surgery バトルロイヤル2 網膜硝子体、斜視編」への当院院長の記載項目は「麻酔法、縫合糸・縫合法、手術、定量法、手術時期、今後の展望」で、各項目別にWeb上で掲載をしてきましたが、「Eye
Surgery バトルロイヤル2 網膜硝子体、斜視編」については、今回で最終号となります。


他の眼科疾患とほぼ同様だが、斜視は子供を対象にすることも多いため、本人(説明が理解できる年齢なら)だけでなく保護者に対しての十分な説明が必要になる。斜視の場合は、初診時より、場合によっては経過観察をしていくうちに、病気に対する治療計画がほぼ決まる。ある日突然手術が必要だと親に話しても驚かせるだけなので、前もって外来受診時に、病気についての説明およびその治療計画をお話ししておくことが重要と考える。また手術が必要になった時点で、より詳しく時間をかけて、その手術の内容、所要時間、予後(将来再手術が必要になる可能性を含む)、予測される術中および術後合併症等について十分な説明を行う。手術の説明を行い、本人または保護者が十分に理解して同意したならば同意書に署名捺印をしてもらう。
ただ全身麻酔のリスクなどについては、全身麻酔での手術が決まった時点で、麻酔医より直接お話ししていただくようにしている。

斜視手術に際しては、裸眼で施行する術者、低倍率の双眼ルーペを使用する術者、顕微鏡を使用する術者がいる。それぞれ一長一短があるが、顕微鏡の使用はビデオ録画することで、術中および術後の斜視手術教育に特に有用と考える。
私が2ヵ月間留学したドイツのKiel大学(de Decker 教授)では、火曜日〜金曜日までの週4日間(連続)で毎日8〜10名のバリエーションに富んだ斜視患者さんの手術を行っていた(3日入院)が、術前日(月曜日から木曜日まで)と術翌日(水曜日から土曜日まで)に、研修医やORTを含むスタッフ全員(約10名)のいる大きな診察室に、実際に患者さんとその家族を順番によんで、診察しながらディスカッションをしていた。術前、主治医がこれまでの症状および経過の説明をし、全員でその治療法(手術法)に対するディスカッションをし、翌日施行する実際の手術法を決定する方法をとっていた。患者さんとその家族もそのディスカッションを通じて最適の手術方法を確認できるわけである。術翌日、どのような結果になっているか全員で理解でき(もちろん長期予後はわからないが)、斜視治療を学ぶための臨場感あふれる優れた教育システムだと思った。

私自身も若手眼科医の頃は、まったく斜視および斜視手術に興味がなかった。その理由としては、ほかに興味の惹かれる分野が多かったことと、斜視は面倒くさい分野と勝手に思い込んでおり、斜視の学問的な面白さがわかっていなかったことによると思う。ただその頃でも、斜視の術後、自分の期待以上に喜んでくれる患者さんが多いことは実感していた。
若手眼科医に斜視に興味をもたせる方法とは、大変むずかしい質問だが、斜視は確かに他の眼科疾患に比べ、病気の種類やその治療法についてのバリエーションが多く、若手眼科医にとって最初は取っ付きにくい分野であると思う。ただ基本的理論(斜視の常識?)を覚えればすぐ実践可能であることも事実である。患者さん(保護者)にとっては斜視が治ることに対する喜びは大変大きいし、指導医の指導のもと、怖がらずにどんどん実践していき自信をつけることが何よりも大切であると思っている。

患者さんにとって苦痛なく、かつ安全に手術を施行されることは最も重要なことだが、最近では白内障手術や緑内障手術などの内眼手術では、ほとんど痛みを伴わずかつ短時間での手術が可能となってきた。しかし局所麻酔での斜視手術は、その技法にもよるが、一般に痛みが強く、時間も長いため、現在、患者さんにとって受けたくない眼科手術の一つとなっている可能性がある。まず局所麻酔での斜視手術を、角膜切開での白内障手術のごとく、手術直後よりほとんど手術痕なく(手術前に限りなく近い状態)、しかもほとんど痛みを伴わずかつ短時間で施行できるような手法を開発できたらな、と思っている。また全身麻酔での斜視手術も、手術直後よりほとんど手術痕のない手術を理想にするとともに、より安全で時間のかからないシンプルなシステムづくりをしていきたいと思う。

現在の技術では、量-効果関係が明確でなく、矯正量の予測が難しいこと。一過性ではあるが、眼瞼下垂、筋麻痺による複視、上下偏位などの合併症(希望しない効果?)が生じる可能性があることにより、通常の斜視手術に代わるものではないと思っている。しかし麻痺性斜視では、症状固定まで(通常6ヵ月以上)は斜視手術をせずに経過観察することになるが、その間の患者さんの苦痛(複視)を軽減するためにも、早期におけるボツリヌス毒素療法(麻痺筋拮抗筋への注入)は有用と考えている。また何らかの理由で通常の斜視手術が施行できない場合は、オプションとしてボツリヌス毒素療法を選ぶ必要もあるので、ぜひ早く日本でもボツリヌス毒素を斜視で使用できることを期待している。
|