当院院長・近江源次郎が「◆ワンポイントアドバイス◆小切開斜視手術のコツ.眼科手術17(1):62-64、2004年」に執筆しておりますので、その内容を転載しお届けいたします。

 小切開斜視手術は、術後整容の良さや回復の早さ等のメリットに加え、もし将来的に緑内障手術をはじめとする斜視以外の眼科手術が必要となる場合に備えて、結膜およびテノン膜への侵襲をなるべく少なく斜視手術ができる利点があり、現在筆者はなるべく全例において顕微鏡下での小切開斜視手術を心がけている。ここでは、実際筆者が行っている方法を中心に、小切開斜視手術の「コツ」について述べてみたい。

1)結膜切開前に、結膜より透けてみえる目的直筋の輪郭を確認しておくことが最も重要である。一般に高齢者では、結膜が薄く容易にわかるが、症例によりわかり難い場合は、自動的もしくは他動的に眼球を動かすことで、目的とする直筋の前毛様体動静脈が結膜の動きと連動して動かないことより直筋の輪郭を知ることができる。

2)将来的に緑内障手術をはじめとする斜視以外の手術も受ける可能性や、術後整容を考え、なるべく結膜およびテノン膜への侵襲が少なくなるような最小限の結膜切開法(できれば線状)を選択する。

3)できるだけ結膜切開創が上・下眼瞼で隠れるように配慮する。

4)眼筋の走行にかかる結膜切開は避ける。

5)一般に年齢が大きくなるに従って、結膜の弾性や強度が低下するので、若年でない症例では小切開からはじめても、必要に応じて最小限の更なる結膜切開を躊躇なく追加する必要がある。
 具体的に筆者は、乳幼児の内直筋後転術では、角膜輪部から約8mmの鼻下部球結膜に対して円蓋部結膜小切開(cul-de sac incision, 約5mm)を行い、ほぼそれに直交する内直筋下縁に沿ってテノン嚢切開を行うことで強膜を露出している(図1A)。またその他の高齢者以外の水平筋手術に対しては、直筋上縁(やや上方)に平行に、輪部から円蓋部(内直筋は半月ひだ手前まで)まで放射状に結膜切開を行い、より直筋上縁に近く同様にテノン嚢切開を行うことで強膜を露出する(図1B)。また結膜弾性の少ない高齢者では、さらに付着部(若干角膜側)で輪部に平行な結膜切開を追加することでL字切開にしている(図1C)。上斜筋および垂直筋に対しては、上直筋または下直筋の付着部より若干角膜側で付着部に対して平行に経結膜切開(約7mm)およびテノン嚢切開を行っている。下斜筋の手術では4-0シルク糸で付着部付近に下直筋と外直筋へ牽引糸をおき、眼球を内上方へ牽引するが、ちょうど下直筋と外直筋間に生じる皺にそって経結膜切開(約7mm)およびテノン嚢切開を行っている(図1D)。いずれもなるべくテノン嚢を結膜にくっつけるように筋の露出を行っている。
 control sutureについては、乳児内斜視に対する両内直筋後転術は、円蓋部結膜小切開(cul-de-sac incision)で行っているので、鼻下側(たとえば右眼では4時半)輪部結膜へ1糸のcontrol suture(5-0絹糸)をおき耳上側へ牽引している(図1A)。また通常の、直筋に対する後転術および切除短縮術では、目的筋側の輪部強膜(たとえば右外直筋では10時、右内直筋では2時、上直筋では12時、下直筋では6時)へ1糸のcontrol suture(5-0絹糸)をおき、牽引の際に角膜上皮障害を生じさせない様に注意しながら、ほぼ対側へ牽引している(図1B,C)。また上斜筋の手術では12時に1糸のcontrol suture(5-0絹糸)をおくが、下斜筋の手術では4-0シルク糸(丸針)で付着部付近に下直筋と外直筋へ牽引糸をおいている(図1D)。
 縫合糸としては、基本的に外眼筋の強膜への縫着は、合成吸収糸である6-0バイクリルTM(ETHICON J446)を、また結膜縫合には、8-0バイクリルTM(ETHICON J548)を用いている。

1)麻酔
 1.全身麻酔
 年少児に限らず、上斜筋の手術やJensen法などのように痛みが強いことが予想される場合や、複雑な斜視手術で手術時間が長くなる可能性が高い場合なども挿管下での全身麻酔で行っている。

 2.局所麻酔
 原則として外来手術で行っているため、前投薬は全く行っていない。上記のような、全身麻酔を用いる必要のない斜視手術で局所麻酔(すべてテノン嚢下麻酔)を用いている。局所麻酔下での斜視手術では、特に眼筋の牽引は最少限とし、眼心反射や疼痛が生じないように、できるだけ丁寧に眼筋を扱う必要があると共に、vocal anesthesia(生じると予想される感覚をあらかじめ告げることにより、患者は余裕を持ってそれを受容できる)が大切である。また手術筋の反対方向をみるように命ずることも重要である。最近筆者は、テノン嚢下麻酔での術中定量をはじめからあきらめ、結膜切開部より深作式ピンポイント麻酔24ゲージ針(鈍針)を強膜に沿って眼球後方まで入れ、2%キシロカインTM2~5ml(結膜浮腫があまり生じない程度の最大量)を注入し、目的筋群周囲に充分浸透するまで待つように心掛けている。この方法を用いるようになり、追加麻酔を必要とすることは無くなり、また患者が痛がり術者が早く手術を終わらせようとパニックになるということも皆無となった。 

2)顕微鏡の使用
 斜視手術においては、現在も多くの術者が、顕微鏡を使用しないで低倍双眼ルーペもしくは裸眼で手術を行っている。その理由としては、目的筋に対してもっともアプローチしやすい場所から手術操作が可能であることや、手術器具への干渉を気にせず手術が可能である点があげられる。しかし最近の顕微鏡では対物レンズの焦点距離が200mmのものやそれ以上のものが普及してきており、筆者は斜筋手術を含むすべての斜視手術で顕微鏡(対物レンズの焦点距離が200mm)を使用している。焦点距離が200mmあると、一般の斜視手術器具による干渉を全く気にせず手術が可能であり、顕微鏡使用の最大の利点は調節力が衰えた術者にも、拡大率を任意に大きくすることやフォーカシングにより常に明るい鮮明な像が得られることで、強膜穿孔や筋紛失などの術中合併症の多くを回避することや結膜縫合時も可能な限り丁寧にできるからである。またビデオ録画ができることも利点と考える。
 術後瘢痕化を最小限にするために、顕微鏡下での必要最低限の止血をこまめに行うことが重要であり、術終了直前のステロイド結膜下注射は原則として行っていない。

 小切開斜視手術が可能か否かは、その症例の結膜弾性に依存するため、高齢者等で結膜弾性の少ない症例では、無理をして結膜が裂けることは避けなければならず、必要に応じて最小限の更なる結膜切開を躊躇なく追加することが肝要と考える。またFaden手術の全例、再手術例や筋移動術の一部では、術野が広い結膜輪部切開法(limbal incision)が適していると考える。

【参考文献】                                     
1)長谷部聡、野中文貴、山根貴司、藤原裕丈、大月洋:Guytonの小切開斜視手術と手術成績. 臨眼55:1767-1770, 2001. 
2)Nelson LB, Calhoun JH, Harley RD, Freeley DA: Cul-de-sac Approach to
Adjustable Strabismus Surgery.Arch Ophthal 100:1305-1307, 1982
3)近江源次郎:斜視、眼振 23.下斜筋過動症, 小児眼科手術 (山本節、中川喬編)P288-292, 中山書店(東京),1998 

図の説明
* 下記リンク(ブルーの文字)をクリックしてください。写真が表示されます。
* 但し 、眼球の手術中の写真ですので、出血等が見られます。小さいお子様や心臓の弱い方等はご遠慮下さい。
図1筆者が行っている斜視手術写真(←クリック)
A:1歳9ヵ月・乳児内斜視への右眼内直筋後転術―円蓋部結膜小切開(cul-de sacincision, 約5mm)
B:9歳・外斜視への左眼外直筋後転術―放射状(円蓋部)結膜小切開
C:76歳・外斜視への左眼外直筋後転術―L字結膜切開(高齢で結膜弾性が少ないため)
D:5歳・上斜筋麻痺への左眼下斜筋前方移動術―下直筋と外直筋間に生じる皺にそって経結膜切開(約8mm)


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