当院院長・近江源次郎が株式会社文光堂発行「眼科検査ガイド」の「眼球運動検査」の「ビデオ眼球運動記録法」の項目を執筆しておりますので、その内容を転載しお届けいたします。

以下、株式会社文光堂発行「眼科検査ガイド」より
(2004年11月3日発行)

 Hess赤緑試験は、左右の各固視眼下で9方向のむき眼位を定量的に測定することにより、各外眼筋の運動制限や過動の有無を検出する検査であり、眼筋麻痺の診断というより、むしろ眼球運動の視診によって診断された麻痺筋の確認と、麻痺の程度の定量的な観察に用いられる。検査結果は図式的に示されるため、異常をパターンとして視覚的に捉えやすく経時的に経過を追い、検査結果を比較するのに適している。そのため麻痺眼、麻痺筋の同定、眼位ずれや眼球運動制限の経過観察にきわめて有用な検査である。しかし、
1. 片眼の眼球運動が正常な患者においてはじめて他眼の眼筋麻痺が同定できる。
2. 被検者が正常網膜対応を有していなければ眼位ずれが正確に検出できないし、強い抑制のかかっている患者や低視力患者では測定困難である。
3. 検査が理解できない小児や協力性のない患者では検査がむずかしい。
4. 色覚異常者あるいは視力不良な患者では検査できないこともある。
5. Bielschowsky頭部傾斜試験などの頭位位置と各外眼筋の運動制限や過動の関連を調べることができない。

などの欠点があった。小型軽量のアイカメラ(赤外線カメラ)と画像高速解析をするためのパーソナルコンピュータをはじめとするビデオ眼球運動記録システムが開発され、上記1〜5の欠点を補う眼位・眼球運動記録が可能である。また片眼固視のみではなく両眼開放時の眼位・眼球運動記録も可能であり臨床的意義は大きい。

検査法 9方向のむき眼位(片眼遮閉と両眼開放)、Bielschowsky頭部傾斜定量試験、衝動性眼球運動、滑動性眼球運動、視運動性眼振、前庭動眼反射など。
検査機器 TalkEye画像処理方式眼球運動測定装置(竹井機器工業社製)。

 両眼用同時計測システムは、左右眼それぞれへの眼球撮影カメラと視野カメラが中央に組み込まれた軽量ゴーグル型両眼用検出器が、カメラコントロールユニットを介してポータブル処理器(モニター・コンピュータ・制御ユニット)に接続される。ゴーグルは所持眼鏡を装用した上から装用できるように設計されており、裸眼以外に、ソフトコンタクトレンズ装用下や眼鏡装用下(コーティング反射が強い場合は眼鏡を傾けるなどの細工が必要)での測定が可能となっている。9方向眼位測定に際しては、ポータブル処理器(コンピュータ)内の測定プログラムによって9方向眼位測定用視標を制御し、コンピュータ上に同時記録を行う。眼球画像から得られる瞳孔座標データや角膜反射点座標データはただ単に眼球の位置データにすぎず、注視点データを得るためには視覚刺激画面の判明している5店以上の点を被検者に注視させて、視覚刺激画面と眼球の位置データに相関させる片眼ずつの注視点校正(キャリブレーション)が必要である。ゴーグルを用いた接触式アイカメラには被検者が見ているシーン(情景)を取り込む視野カメラがゴーグル中央下方に装着されている。パーソナルコンピュータを含む画像処理部でのサンプリング時間は60Hz/30Hz選択可で、検出分解能は0.1°である。ヘッドセット検出器の検出角度範囲は水平±25°、垂直±25°である。ただアイカメラは睫毛の写り込みの影響を減らすために30°下方より瞳孔部分の中心点と角膜反射点を捉えているが、被検者により睫毛や瞼裂幅などの影響で検出角度範囲は若干異なる。このシステムは取り込んだ眼球画像から瞳孔部分の中心点と角膜反射点(Purkinje第1像)の位置座標を求める処理を行い眼位計測するため、回旋眼位の測定はできない。
類似装置 DPI(二重Purkinje像)眼球運動追跡装置(フォワードテクノロジーズ社製)、眼球運動・注視点解析装置(ISCAN社製)

 本装置は研究目的に開発された装置であるため、測定条件については現在のところ各施設で独自の方法を用いている。ここでは、われわれの施設で用いているHess赤緑試験の欠点を補う9方向眼位測定について以下述べる。9方向眼位測定に際しては、まずゴーグル(ヘッドセット検出器)を装着し、カメラコントロールユニットを介してポータブル処理器に接続する。またポータブル処理器より9方向眼位測定用タンジェント視標板(1m用)を制御するための接続も行う。測定プログラムを起動させ、モニター画面上の指示に従って操作を行う。中央、上15°、下15°、右15°、左15°の5点を被検者に注視させて、視覚刺激画面と眼球の位置データに相関させる片眼ずつの注視点校正(キャリブレーション)を行う。被検者により睫毛や瞼裂幅などの影響で検出が悪い場合は、ゴーグルの装着状態や左右眼それぞれへの眼球撮影カメラの位置の微調整を行う必要がある。また眼鏡装用下での測定に際しては、眼鏡を傾けるなどの細工も必要となることもある。注視点校正(キャリブレーション)後に、実際の9方向眼位測定に入る。まず両眼開放で9方向眼位測定用タンジェント視標板(1m用)の中央(中央の視標)→上(上15°の視標)→右(上15°+右15°の視標)→下(右15°の視標)→下(右15°+下15°の視標)→左(下15°の視標)→左(下15°+左15°の視標)→上(左15°の視標)→上(左15°+上15°の視標)と9方向へ視標を順次3秒ずつ点灯させ追従および固視をさせる。その後右眼固視と左眼固視で同様に9方向眼位測定を行う。オーバーシュートなどの影響を最小限にするため、視標移動後1秒後から2秒後の30サンプルの平均値を用い9方向眼位の作図を行う。

 本装置は比較的短時間で簡便に測定できるにもかかわらず、検出分解能は0.1°でサンプリング数は標準で毎秒30であるため、眼振波形や眼筋麻痺における麻痺筋の運動能力評価などの眼球運動解析についても現在最も正確に測定できる装置であるサーチコイル法(本紙332頁参照)の精密さには及ばないものの、臨床使用に十分に耐えるものである。


ホームへ