
当院院長・近江源次郎が株式会社メディカル葵出版発行「あたらしい眼科 Vol.21 臨時増刊号 2004 神経眼科Q&A」の「全身性疾患」の「調節痙攣の診断と治療について教えてください」の項目を執筆しておりますので、その内容を転載しお届けいたします。
以下、株式会社メディカル葵出版発行「あたらしい眼科 Vol.21 臨時増刊号 2004 神経眼科Q&A」より
(2005年1月20日発行)
調節痙攣の診断と治療について教えてください
A.
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調節痙攣(spasm of accommodation)は調節過多の状態をいい、その原因により末梢性と中枢性とに二分できる。 |
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臨床の場では、最初から調節痙攣を訴えて来院することはまれであり、実際には眼精疲労や遠見障害を訴えて来院する患者が多い。 |
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調節痙攣の診断には問診が最も大切である。 |
4. |
調節痙攣の詳しい病態把握には、近見反応の3要素である調節・瞳孔・輻湊の同時測定が役立つことが多い。 |
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調節痙攣の治療方針としては、原因の解明とその除去が第一であり、それと並行して症状寛解への対症療法を行う。 |
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調節痙攣(spasm of accommodation)は調節過多の状態をいい、その原因により末梢性と中枢性とに二分できる。
末梢性調節痙攣は調節筋の過労による症状で、固視意思をもったときに調節筋の緊張亢進(縮瞳を伴う)が認められるもので、テクノストレス眼症(軽症)が代表である。
中枢性調節痙攣は副交感神経刺激状態で発症し、非合目的の不随意性の調節筋収縮(縮瞳を伴う)をいい、テクノストレス眼症(重症)や睡眠障害、飲酒などの薬物によるものや、頭頸部外傷後、後頭蓋窩腫瘍、下垂体腫瘍、脳炎、中毒などで認められる。中枢性調節痙攣では、縮瞳以外に間欠的な輻湊痙攣による内斜視を合併する場合もあり、その場合は近見反応痙攣(spasm
of thenear reflex)1)ともよばれている。

調節痙攣が生じると物体にピントが合わせにくくなるだけでなく、眼精疲労(asthenopia)をきたし、頭痛や肩こり・吐き気などの症状を伴うことになる。臨床の場では、最初から調節痙攣を訴えて来院することはまれであり、実際には眼精疲労や遠見障害を訴えて来院する患者が多い。そのため調節痙攣の診断には問診(表1)が最も大切であると言える。その他、視力検査(遠方・近方)、屈折検査、斜視検査、調節検査
[ 特に赤外線オプトメータによる準静的特性検査が有用 ] を含む眼科一般検査が必要となる。症例によっては、頭蓋内病変の除外診断が重要となる。また調節麻痺薬点眼下における屈折度の測定が診断および眼鏡処方の際に役立つ。
準静的特性検査の代用として、オートレフラクトメータの連続測定結果(できれば片眼5回以上ずつ)が、固視が良好であったにもかかわらずそのばらつきが大きいことからも調節痙攣の把握が可能である(オートレフラクトメータのモニター上でも瞳孔動揺や異常な縮瞳を認める)。また調節麻痺薬の点眼後にそのばらつきが小さくなり近視化の軽減が著明に認められることで診断できる。また詳しい病態把握には、近見反応の3要素である調節・瞳孔・輻湊の同時測定が役立つことが多い。
[ 表1] 調節痙攣(おもに眼精疲労や遠見障害を主訴に来院)と問診のポイント
| a) |
いつから? [ 年齢と症状、近業(仕事の)開始と症状、眼鏡(CL)装用開始と症状など
] |
| b) |
どのような症状? [ 眼症状(眼痛は?充血は?ドライアイ症状は?羞明感は?近くが見にくい?遠くが見にくい(近視化)?遠くに焦点が合う時間がかかる?近見時の交叉性複視など)と全身症状(頸肩腕症状は?頭痛は?精神症状は?など)
] |
| c) |
時間的要因は?(症状が夕方に増強?症状が週末に増強?天候によって違い?) |
| d) |
仕事の内容は?(職場・職種は?仕事に慣れているか?VDT作業が4時間以上/日?小休止の時間とその頻度?) |
| e) |
作業環境は? [ 姿勢、視距離、見やすさ(写りこみなどのノイズが少なく、明るさとコントラストが適切)、空調、音環境などが良好な状態か?対人関係は良好か?
] |
| f) |
睡眠時間は?(十分に全身疲労が回復する睡眠をとっているか?) |
| g) |
飲酒の量は? |
| h) |
通勤・家庭の状況は? |
| i) |
眼病歴は? [ 器質的眼疾患(白内障、緑内障、網膜疾患、視神経疾患など)は?斜視弱視は?輻湊障害は?眼振は?ドライアイは?屈折異常(乱視、遠視、不同視)は?調節異常は?など
] |
| j) |
全身病歴・外傷歴は? [ 器質的疾患(消化器、心血管、腎、肝、血液、内分泌、脳神経、副鼻腔)は?薬剤の副作用は?頭頸部外傷は?精神神経疾患は?など
] |
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調節痙攣の治療方針としては、原因の解明とその除去が第一であり、それと並行して症状寛解への対症療法を行う。多くの調節痙攣は外環境要因(眼の使用)、視器要因(眼の能力)、内環境・心的要因(耐える力)と疲労回復要因のバランスの崩れにより発症すると説明でき、治療はそのバランスを調整することである。原因に対する治療や配慮を怠り、点眼薬や内服薬の処方に終始するなら、調節痙攣症状や眼精疲労の訴えは消失しない場合が多い。
まず、不適眼鏡(あるいは裸眼)が問題と考える場合には適切な眼鏡処方(特に乱視矯正が重要)が必要となるが、最終的には作業専用眼鏡の装用が望ましい。しかしまずシアノコバラミン(cyanocobalamin)(サンコバ )、ネオスチグミン(neostigmine)などの点眼薬を試みる。点眼液のシアノコバラミンは、現在眼科臨床で頻用されている薬剤であり、0.02%溶液で調節性眼精疲労患者の反復測定時の調節時間、緊張・弛緩運動の改善傾向がみられ、微動調節運動において有意の改善がみられることが報告されている2)。また、副交感神経刺激剤であるメチル硫酸ネオスチグミン(neostigmine
methylsulfate)は、コリンエステラーゼを一時的に不活性化しアセチルコリンの不足を補う作用があり、この0.005%溶液に毛様筋の代謝に必要な電解質、アミノ酸を配合した合剤(ミオピン )は調節機能の改善が期待できる3)。さらに副交感神経の伝達遮断剤であるトロピカミド(tropicamide)(ミドリンM :0.4%溶液)や塩酸シクロペントラート(cyclopentolate hydrochloride)(サイプレジン :1%溶液)の低濃度(20〜40倍希釈である0.05〜0.025液)の就眠前の連日点眼は、末梢性調節痙攣(テクノストレス眼症で多く認められる)では有効である4)が、頭頸部外傷後の調節痙攣を代表とする中枢性調節痙攣では無効であることが多い。
内服薬では、ビタミンB12製剤として、活性が高く体内残留時間も長いためより多くの効果が期待できることから、メコバラミン(mecobalamin)(メチコバール )が現在はおもに使用されており5)、低濃度でも末梢神経系のの運動神経細胞膜の活動の増大が起こること、運動負荷により減少した神経細胞内RNAを回復させることなどから、毛様体筋局所またはそれを支配する末梢神経機能への影響が考えられる。

調節痙攣と診断された患者への眼鏡の作製(矯正度数決定)にあたっては、適正な両眼開放下での矯正度数を求めることが重要で、正確な乱視矯正にはクロスシリンダーを用い乱視度数決定後、偏光レンズを使って両眼同時雲霧法により+側の球面度数を求めるよう心がけ左右のバランスをとるようにする(もしそのとき、眼位ズレや不同視がみつかったら、プリズム補正と優位眼に合わせた球面補正を行う場合がある)。また調節麻痺薬点眼下における屈折度の測定は欠かせない。筆者らは約1日で散瞳作用がなくなる1%シクロペントラート(サイプレジン )点眼をおもに用いている(頭頸部外傷後の調節痙攣のなかにはサイプレジン 点眼では調節麻痺効果は不十分で、より調節麻痺効果の強い1%アトロピンを1日3回、5〜7日の点眼が必要と考える症例もある)。調節麻痺薬を点眼すると散瞳するので、視力・屈折検査に直径3mmの円孔板を用いるとよい。可能であればサイプレジン 点眼前後での準静的特性を比較する。それは調節痙攣の病態把握のためだけでなく、調節麻痺効果の評価、調節波形のbase
lineの確認などができるためである。
- 文 献 -
| 1) |
Knapp C, Sachdev A, Gottlob I : Spasm of the near reflex associated with
head injury.
Strabisms 10:1-4,2002 |
| 2) |
鈴村昭弘:Vitamin B12点眼剤による眼精疲労患者の調節機能、とくにPEAGの動向。
眼紀28:340-354、1977 |
| 3) |
中谷 一、清水芳樹:眼精疲労患者に対するPAB-29点眼液の臨床評価。
日本の眼科62:1157-1165、1991 |
| 4) |
近江原次郎、木下 茂:VDT作業による眼精疲労とその自律神経作働薬による治療。
あたらしい眼科8:175-181、1991 |
| 5) |
徳岡 覚:眼精疲労患者に対するメチルB12(メチコバール )の使用経験。
眼臨80、2069-2071、1986 |
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