
当院院長・近江源次郎が株式会社文光堂刊「眼科検査ガイド」の「調節障害」の項目を執筆しておりますので、その内容を転載しお届けいたします。
以下、株式会社文光堂刊「眼科検査ガイド」より(2004年11月3日発行)

調節とは物体の像を網膜上に結ばせるために眼の屈折力を変化させる機能で、いわゆるピント合わせの機能である。調節障害は健常者の加齢変化による老視(presbyopia)と、病的異常に区分できる。老視とは加齢変化により調節力が減退し、近方視が困難になった状態である。病的異常には調節衰弱(ill-sustained
accommodation)、調節不全(accommodation insufficiency)、調節遅鈍(accommodation
inertia)、調節麻痺(parelysis of accommodation)、調節緊張(tonic accommodation)、調節痙攣(spasm
of accommodation)などがある(表1)。
調節機能が低下すると物体にピントが合わせにくくなるだけでなく、眼精疲労(asthenopia)をきたし、頭痛や肩こり・吐き気などの症状を伴うことになる。臨床の場では、最初から調節障害を訴えて来院することはまれであり、実際には眼精疲労を訴えて来院する患者がほとんどである。その場合に、眼精疲労の原因に調節が関係しているかどうか、どのような調節障害かを知る目的で調節検査が行われる。
[ 表1] 調節障害(病的異常)
a. |
調節衰弱とは、近点測定を反復すると、近点後退現象のみられるもの。 |
b. |
調節不全とは、発症が急ではなく、調節力が年齢相当の調節力よりも弱いもの。 |
c. |
調節鈍純とは、遠点から近点への調節時間の延長するもの。 |
d. |
調節麻痺とは、近見障害が急性発症し、近点が異常に遠隔しているもので、調節が残存する調節不全麻痺(paresis
of accommodation)と、全く調節が残存していない調節麻痺(parelysis of accommodatin)に区分される。 |
e. |
調節緊張には二つの別のclinical entityに使われ、一つは一般的に使われている調節緊張(tonic
accommodation)で、生理的トーヌス(調節筋の生理的緊張を保つ必要最小限の緊張)と異常トーヌス(生理的緊張範囲を越えた異常な緊張状態で、これが偽近視を発生させる)からなる。もう一つは調節緊張症ともいわれ、調節緊張時間と調節弛緩時間の一方または両方が延長するものである。 |
f. |
調節痙攣は調節過多の状態をいい、その原因により末梢性と中枢性とに2分される。 |
| |
1. |
末梢性調節痙攣は調節筋の過労による症状で、固視意思をもったときに調節筋の緊張亢進(縮瞳も伴う)が認められるもので、テクノストレス眼症(軽症)が代表である。 |
2. |
中枢性調節痙攣は副交感神経刺激状態で発症し、非合目的の不随意性の調節筋収縮(縮瞳も伴う)をいい、頭頸部外傷後や睡眠障害、飲酒などの薬物によるものや、テクノストレス眼症(重症)などで認められる。 |
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[ 図1] 調節障害(眼精疲労)検査のフローチャート |
ここでは、眼精疲労を訴えて来院した調節障害患者を例に、図1に実際の検査手順をフローチャートに示した。フローチャートに沿って検査の進め方について以下述べる。

何らかの視作業を行うことにより健常人が感じる疲労は眼疲労(生理的疲労)と呼ばれ、「作業量と疲労感がつりあっている」「一定の休息によって回復する」ことが特徴とされる。これに対し、「作業量に比較して疲労症状が著しく強い」「一定の休息でも十分な回復が得られない」さらには「作業負荷がないにもかかわらず不快な疲労症状を強く自覚する」ことを特徴とする病的疲労があり、これを眼精疲労と呼び、眼疲労と区別している。
最近のOA機器の普及によるVDT(visual display terminal)従事者の急増に伴い、現代病として眼精疲労を訴え眼科受診する患者が増加している。本来、眼精疲労は身体内・外の異常状況の表現形態であり、その原因を探ることが診断・治療の要点となる。眼精疲労は外環境要因(眼の使用)、視器要因(眼の能力)、内環境・心的要因(耐える力)と疲労回復要因のバランスの崩れにより発症すると説明されるが、治療はそのバランスを調整することである。治療の原則は、原因疾患の治療であり、それと並行して症状寛解への対症療法を行う。原因に対する治療や配慮を怠り、点眼薬や内服薬の処方に終始するなら、眼精疲労の訴えは消失しない場合が多く、その意味からも詳細な問診(表2)が最も大切であるといえる。
[ 表2] 眼精疲労と問診のポイント
| a) |
いつから? [ 年齢と症状、近業(仕事の)開始と症状、眼鏡(CL)装用開始と症状など
] |
| b) |
どのような症状? [ 眼症状(眼痛は?充血は?ドライアイ症状は?羞明感は?近くが見にくい?遠くが見にくい(近視化)?遠くに焦点が合う時間がかかる?近見時の交叉性複視など)と全身症状(頸肩腕症状は?頭痛は?精神症状は?など)
] |
| c) |
時間的要因は?(症状が夕方に増強?症状が週末に増強?天候によって違い?) |
| d) |
仕事の内容は?(職場・職種は?仕事に慣れているか?VDT作業が4時間以上/日?小休止の時間とその頻度?) |
| e) |
作業環境は? [ 姿勢、視距離、見易さ(写りこみなどのノイズが少なく、明るさとコントラストが適切)、空調、音環境などが良好な状態か?対人関係は良好か?
] |
| f) |
睡眠時間は?(十分に全身疲労が回復する睡眠をとっているか?) |
| g) |
飲酒の量は? |
| h) |
通勤・家庭の状況は? |
| i) |
眼病歴は? [ 器質的眼疾患(白内障、緑内障、網膜疾患、視神経疾患など)は?斜視弱視は?輻湊障害は?眼振は?ドライアイは?屈折異常(乱視、遠視、不同視)は?調節異常は?など
] |
| j) |
全身病歴・外傷歴は? [ 器質的疾患(消化器、心血管、腎、肝、血液、内分泌、脳神経、副鼻腔)は?薬剤の副作用は?頭頸部外傷は?精神神経疾患は?など
] |
|

まず視力(遠方・近方)と屈折検査を行う。

屈折矯正を行った状態で、眼精疲労が改善するかをまずみる。

| a 調節検査の対象となる患者は? |
| (1) |
老視などの近見障害。 |
| (2) |
調節麻痺、痙攣、衰弱、緊張症などの調節障害。 |
| (3) |
眼精疲労。 |
| (4) |
頭頸部外傷(いわゆるむち打ち症)に伴う調節障害:調節痙攣、近視化。 |
| (5) |
visual display terminal(VDT)症候群またはテクノストレス症候群:長時間のVDT作業による調節痙攣または緊張症、近視化 |
| (6) |
ヒステリー弱視が疑われる患者:視力と矛盾する調節応答。 |
b 自覚的調節検査とはどのようなものか |
| 1)石原式近距離視力表 |
| 調節障害かどうかのスクリーニングに最も簡単で重要な検査である。この検査で異常があれば、各種の精密な調節検査を行う。また、この検査は老眼鏡を処方する場合の検査にも必ず用いられている。検査方法としては、眼前30cmの距離で明視できる最小の字づまり視標でその眼の近距離視力を求める。5mの遠距離視力が裸眼または矯正眼鏡にて1.0であるのに、近距離視力が同じ条件下で1.0より低ければ調節障害があることがわかる。近距離視標を明視するのに必要な加入レンズの度数によって調節障害の程度を求める。 |
| 2)石原式近点計 |
| 調節障害が疑われた場合に調節の近点がどの位置にあるかを知る。接眼部の試験枠にレンズを加入することによって、人工的な近視を作れば、この機械にて遠点も計測できるようになっている。調節幅の測定は精密な調節機能を知るうえで欠くことのできないものである。調節幅の検査では、被検眼の矯正視力、被検者の努力、注意、集中力、視標を移動させる速度、視標の大きさ、コントラスト、明るさなどが影響する。また、ピントがぼけ始めた点を正確に答えるのもむずかしい、さらに調節lag(lag
of accommodation)として、正確に調節を行っていなくてもピントが合ったように見える現象があることも考慮しておかねばならない。この調節lagには、ピンホール効果としての小瞳孔や乱視の存在などが影響しており、自覚的検査での調節幅は、他覚的に求めた真の屈折力の変化としての調節幅よりも大きな値となる。 |
| 3)アコモドポリレコーダー |
| 遠方と近方に置かれた視標にピントが合うまでの時間の長さから調節障害を診断する装置である。内蔵された視標はレンズによって光学的に遠方と近方に設置され、電動式に遠方視標と近方視標が交互に点灯するようになっている。視標にピントが合うまでの時間を調節時間として反復測定する。近方視標にピントが合うまでの時間を緊張時間、遠方視標にピントが合うまでの時間を弛緩時間として調節時間の現れ方をいくつかの型に分類し、調節障害の性格を明らかにすることができる。この検査も自覚的な検査であり、被検眼の矯正視力、被検者の努力、注意、集中力が影響し、ピントがぼけ始めた時点を正確に応答するむずかしさも残されている。また、調節lagも混入することは石原式と同様であるが、調節幅を求める検査ではなく、調節時間の型からどのような調節障害かを診断することを目的とした機械である。検査結果の再現性が得にくいこと、正常者あるいは異常者であっても、いくつかの型に当てはまってしまうために、検査結果(アコモドグラムパターン)だけから診断することは難しいことが多い。 |
c 他覚的調節検査とはどのようなものか |
自覚的検査における調節lagの影響を排除し、オートレフラクトメータに改造を加えることにより正確な屈折値の変化が測定されるようになっている。静的な測定、動的連続的な測定、準静的な測定も可能であり、現存の調節機能の検査機器では最も正確に調節反応が測定できるものである。他覚的調節検査であっても、調節反応には被検眼の矯正視力、被検者の努力、注意、集中力、視標を移動させる速度、視標の大きさ、コントラスト、明るさなどが影響する。ただし、自覚的検査では避けられなかった応答の不正確さや調節lagが測定に影響することは少なく、この方法で得られる調節幅は自覚的検査による調節幅よりも小さな値となる。visual
display terminal(VDT)症候群またはテクノストレス症候群の診断に有効で、これらの疾患では調節痙攣または緊張の波形が主に得られる。
眼精疲労の治療評価については、自覚症状の改善を裏打ちする他覚的調節検査(できれば近見反応の3要素である調節・瞳孔・輻湊の同時測定)による評価が重要となる。 |
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